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べっかん

ヤマグチジロウの諸々の別館。長文を書きたいお年頃。

レギュラーとチョコミントのお話。

その他

 

ヤマグチジロウは震えていた。寒さからではない。むしろ、寒さで震えることのできない怒りという感情が、彼の体を震わせていた。

夕方、スーパーマーケットの片隅、冷蔵・冷凍のケースが並ぶ店内の一角に彼の姿があった。買い物かごの中には何日か分の食料が入れられ、もう買い忘れはないなと店内をぶらぶらと歩いていたところ、ふと目に入ったその冷凍ケースの前に立ち止まった。

ケースの中には色とりどり大小様々なアイスクリームが並んでいた。しかし、彼はその中からひとつとして手に取ることもなく、ただただケースの中身を睨む。

 

「なぜだ、なぜなのだ……」

彼の心は、体は、確かに震えていた。

なぜチョコミントがないのかと震えていた。このスーパーだけではない。この時期、どのスーパーに行ってもスプーンで掬うカップアイスのチョコミント味がないのだ。

去年の夏には確かにあった。彼が今佇んでいるこの冷凍ケースの中にもチョコミントは存在していた。赤城乳業のチョコミントに加え、期間限定ではあったがあの世界のハーゲンダッツにもショコラミント味として発売されるなど、チョコミン党である我々には少々過ごしやすい夏だったように感じていた。

しかし現在、冬。寒い外から帰ってきて暖房の効いた部屋の中で温もりながらキンキンに冷えたアイスを食べる。そんな現代科学を活用した最高の贅沢とも言えるこの行為を、まだ本当の意味で満喫できてはいない。

一時の繁栄も虚しく、チョコミン党の栄光は長くは続かなかったということだ。

 

夏も過ぎ去ったある日、それは突然に起こった。いつも贔屓にしていた赤城乳業のチョコミントが、冷凍ケースの中から姿を消したのだ。あまりの絶望に言葉を失い、立ち尽くしたことを覚えている。

信じられなかった。きっと売り切れているだけだろうと、そう信じたかった。しかし、次の日もまた次の日も、今日に至るまでこの冷凍ケースにチョコミントが並ぶことはなかった。

赤城乳業のサイトにもアクセスしてみたが、どうやら製造中止というわけでもないようだった。ということはスーパー側が仕入れていないということになる。

なぜなのだ。なぜ世界はこんなにもチョコミントを冷遇するのだ。……いや、アイスなのだから冷たく扱わないと溶けてしまうわけだが、今はそういう言葉遊びをしたいわけではないのだ。今は!

 

そもそも、今のこのチョコミントに対する扱いさえもどうかと思うのだ。100歩譲って好き嫌いの分かれる味だとは認めよう。よく聞く歯磨き粉の味だというのも納得こそしないが、一つの意見として認めてやろう。しかしそれを取り除いたとしてもチョコミントはバニラ、チョコレートに次いで抹茶と並ぶほどのフレーバーとしての地位はあるのではないかと。そう思っている。何も変わり種のフレーバーを常備しておいて欲しいとはひとつも思っていない。清涼飲料であればコーラ、サイダー、オレンジジュース、お茶、ミネラルウォーターを一通り常備しておいて残りは限定フレーバーで回せばいいではないかと、そういうことを思っているのだ。そしてその基本の5品に、なぜチョコミントを選ばないのか。

正直な話、今のこのスーパーの冷凍ケースの中身はそう思う彼にとっては魅力的なものではなかった。普段であれば明治エッセルスーパーカップを選びがちなのだが、その味にも飽き始めている。せめてバニラックッキーがあればそれを選ぶのだが、今はそれさえも無い。そもそも、明治エッセルスーパーカップがチョコミントをレギュラーにしてくれればいいだけなのである。それだけで、チョコミン党の人々は幸せなのではないだろうか。バニラ、チョコレート、抹茶はカバーしておいてチョコミントはいつ現れるのかが分からない影キャラ扱いとはあんまりではないか。頼むよ明治。

 

彼がそんなことを考えている間にも時間は過ぎ、店の外へ目をやると辺りはすっかり暗くなってしまっていた。結局、アイスクリームをひとつも手に取らぬままレジへ向かい、会計を済ませた。

品物を袋に詰め、店を出ると深くなった闇から流れる強い風が一層彼を身震いさせた。帰ったら真っ先に暖房のスイッチを入れよう。足取りを速め、家路を辿りながらそう心に決めた。

 

「ああ、温かい部屋はあれど、キンキンに冷えたアイスクリームがないのは寂しいな」

自宅へ戻り、一息ついた彼はそう呟いた。そもそもあのお店が、引いてはどこか近場の店がチョコミントを仕入れてくれればこんな思いにならずに済んだのに。彼は重い足取りで買ってきた荷物を整理した。

 

……にんにくを買うのを忘れていた。


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