突拍子もない嘘で固められた熱い漫談が一人芸の頂点、つまり本物だと認められた瞬間だった。
今回はその街裏ぴんくに魅せられた一人として彼の優勝までの道のりをたどってみたいと思います。
まず大前提として、街裏ぴんくのネタはすべてが嘘で構成されている。ファンタジー漫談などとも呼ばれているが、すべてが嘘であるということが他に例を見ない最大のストロングポイントであり、弱点でもあった。
「すべてが嘘である」ということが理解できていれば最初から笑えるが、特にR-1などの賞レースでは初見の観客も多く、伝わりきらずに3分、もしくはもっと短い時間が過ぎてしまって苦戦して敗退してきたのがこれまでのR-1での街裏ぴんくである。
「すべて嘘」であることが伝わらなければ難しい笑いだということは、本人もやはり気にしてしまうところであるようで「YouTubeに「調べたらこんな施設はない、こんな嘘は良くない」というコメントがくる」という悩みを吐露していたりもする。
最大の足掻きとして、2019年に唯一準決勝に進出した時には、ジャケットの下にでっかく“嘘”と書かれたTシャツを着て挑んでいたりもした。
その苦戦が2020年以降に徐々に花開いてきたように思える。決勝進出時に誰よりも芸人に囲まれて宿福を受けていた姿は、ライブで共演している芸人たちも実力を認める一目置かれた存在であることの証明であるし、ハリウッドザコシショウからは特にこの1、2年でいろんな番組などに呼んでもらえる機会が増えていたように感じる。
R-1の紹介VTRでも紹介されていた意欲的な単独ライブや、後輩のトンツカタン森本のYouTubeチャンネル『タイマン森本』に直談判で出演するなど、貪欲さも後押しになったであろう。
その中でも僕が個人的に大きな波を感じたのがPodcast『虚史平成』である。
「平成の間に起こった事件や出来事に“たまたま居合わせた”人物の独白」という体裁を取ったラジオは、これ以上ないほどに街裏ぴんくの芸風にマッチしたコンテンツであると感じた。
平成史というある意味共有された記憶の中には「すべて嘘」が異物としてちゃんと浮き上がる仕組みになっている。「すべて嘘」をどう伝えればいいのかという最大の壁が、ずっと容易に伝わるフォーマットなのではないだろうか。
R-1のファイナルラウンドで披露した「初期メンバー」も、この『虚史平成』で配信されている。
最大の追い風はR-1グランプリのほうから吹いていた。
芸歴制限の撤廃はもちろんのことだが、ネタ時間が従来の3分から4分に変更になった。ここにも「すべて嘘」を伝えるための大きな要因があったとのではないだろうか。
本人も優勝後の会見で「起承転結がつけられた。そこも勝因だと思う」と話している。
ということで、街裏ぴんくの優勝には「歴史」と「時間」という追い風があったように思えた。
もちろん、ネタ作りの面にも「すべて嘘」をいち早く理解させるギミックが隠れていて、自身を女芸人と自称するツカミや「こんなん嘘だったらヤバい人でしょ!?」と、観客に嘘という言葉を脳に焼き付けるセリフも抜群に効いていたと感じた。
つまり、何が言いたかったのかというと「街裏ぴんくがR-1で優勝する世界、最高だな」ということなんですよー!
そんなお話でした。
ちなみに僕が一番好きなネタはコレです。
それでは。